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体幹とは?ドローインとブレーシング、2つの違いを解説

体幹トレーニング、頑張っているのに効果が出ない…その原因、実は「呼吸法」にあるかもしれません。腹筋を固めるだけのトレーニングでは、腰を痛めたりパフォーマンスが伸び悩んだりすることも。

この記事では、体幹機能を劇的に向上させる2つの呼吸法「ドローイン」と「ブレーシング」を科学的根拠に基づき徹底解説。最新の運動科学に基づいた正しい方法を学ぶことで、あなたのトレーニングは驚くほど効果的になります。今日から実践できる簡単なステップで、本物の強い体幹を手に入れましょう。


そもそも体幹(コア)とは?呼吸が安定性のカギ

「体幹を鍛えましょう」とよく言われますが、あなたは体幹が体のどの部分で、どんな働きをするか正しく理解していますか?

実は、体幹の安定性には「呼吸」が深く関わっています。まずは、その仕組みから見ていきましょう。

体幹は内側から支える圧力容器

体幹とは、単にお腹周りの筋肉(アウターマッスル)だけを指すのではありません。

現代の考え方では、体幹は内側から体を支える圧力容器のようなものと定義されています。

  • 上部:横隔膜(呼吸筋)
  • 前後・側面:腹横筋(天然のコルセット)
  • 後部:多裂筋(背骨につく深層筋)
  • 底部:骨盤底筋群

これらの深層筋(インナーマッスル)が連携して収縮することで、お腹の内部の圧力、すなわち「腹腔内圧」が高まります。この圧力が高まると、体の中から背骨を支える強力な支柱となり、体が安定するのです。

呼吸筋「横隔膜」が体幹安定の主役

この圧力システムの中で、特に重要なのが呼吸の主役である「横隔膜(おうかくまく)」です。

横隔膜は息を吸うときに収縮して下がり、お腹の空間を上から圧縮します。この動きが、腹腔内圧を高めるための主要なエンジンとなるのです。

つまり、呼吸のやり方次第で、体幹の安定性は大きく変わるということ。

今回ご紹介する「ドローイン」と「ブレーシング」は、この体幹という圧力容器をコントロールするための、根本的に異なる2つの呼吸戦略なのです。

次の章では、まず基本となる「ドローイン」について詳しく解説します。


深層筋を目覚めさせる「ドローイン」

ドローインは、体幹トレーニングの基本として広く知られている呼吸法です。しかし、その本当の目的を理解している人は少ないかもしれません。

ドローインの目的は眠った筋肉の再教育

ドローインの結論から言うと、その目的は「眠っている深層筋(インナーマッスル)を目覚めさせること」です。

慢性的な腰痛を抱える人は、腕や脚を動かす際に働くべきインナーマッスル、特に「天然のコルセット」と呼ばれる腹横筋の反応が遅れていることが研究でわかっています。

ドローインは、この腹横筋を意識的に収縮させる練習です。脳と筋肉の神経的なつながりを再確立し、「正しいタイミングで働けるようにする」ためのリハビリテーション手法なのです。

重いものを持ち上げるためではなく、まずは筋肉の使い方を体に思い出させることが重要となります。

今日からできる!ドローインの正しいやり方

ドローインは正しい感覚を掴むことが大切です。まずは仰向けで練習してみましょう。

  1. 仰向けになり、両膝を90度くらいに立ててリラックスします。
  2. 骨盤の前の出っ張った骨から、指2〜3本分内側を指先で軽く押さえます。
  3. 鼻から息を吸い、お腹を軽く膨らませます。
  4. 口をすぼめて「フーッ」と細く長く息を吐きながら、おへそをゆっくりと背骨の方向に引き込み、お腹を凹ませていきます。
  5. 指先の下で筋肉が硬くなるのを感じましょう。
  6. 息を吐き切り、お腹が凹んだ状態を5〜10秒キープ。この間、呼吸は止めず、浅く続けます。

【よくある間違い】

  • 呼吸を止めてしまう:血圧が上がる危険があり、効果も半減します。
  • 肩や首に力が入る:全身はリラックス。お腹の深層部だけを意識してください。
  • 腰を反らしてしまう:腰と床の間に隙間ができすぎないように注意しましょう。

仰向けで感覚を掴めたら、座った姿勢や立った姿勢でも実践し、日常生活に活かしていくのが理想です。

ドローインは腰痛改善に効果的だが限界もある

ドローインは、腹横筋などを選択的に活性化させるため、腰痛の改善や姿勢維持に非常に効果的であることが多くの研究で示されています。

しかし、ドローインは万能ではありません。最大の限界は、高い腹腔内圧を生み出せないことです。お腹を凹ませる動きは、強い力を発揮するための体の自然なメカニズムとは異なります。

スクワットなどの高負荷トレーニングやスポーツの場面では、ドローインは不向きであり、パフォーマンスを逆に下げてしまう可能性すらあるのです。

では、高負荷の状況ではどのような呼吸法が必要なのでしょうか?それが次にご紹介する「ブレーシング」です。


体幹を鎧化する「ブレーシング」

ドローインが深層筋の「目覚め」を促す繊細なアプローチなら、ブレーシングは体幹を「鎧化」する、より強力で実践的な戦略です。

ブレーシングは体幹の剛性を最大化する技術

ブレーシングの目的は、「体幹全体の筋肉を同時に収縮させ、剛性(硬さ)を最大化すること」です。

お腹にパンチを受ける寸前に、グッと身構える状態を想像してみてください。このとき、お腹は凹ませるのではなく、むしろ全方向に張り出して固まりますよね。これがブレーシングです。

腹横筋だけでなく、腹直筋や腹斜筋といったアウターマッスルも総動員して腹腔内圧を劇的に高め、背骨をガッチリと固定します。

この高い剛性は、

  • 高重量トレーニングでのケガ予防
  • コンタクトスポーツでの衝撃吸収
  • ゴルフや野球での爆発的なパワー伝達

など、高いパフォーマンスが求められる場面で不可欠な技術なのです。

パフォーマンスを上げる!ブレーシングの正しいやり方

ブレーシングは単なる力みではありません。横隔膜とお腹周りの筋肉を協調させる練習が必要です。

  1. まず仰向けになり、お腹に手を当てて腹式呼吸をします。息を吸ったときにお腹が膨らむ感覚を掴みましょう。
  2. 息を吸い込み、お腹を全方向(前、横、背中側)にパンパンに膨らませます。
  3. 息を吸い切ったところで、「フッ」と短く息を止めるか、わずかに吐き出し、お腹全体に力を込めて瞬時に固めます。
  4. このとき、脇腹が凹まないように、外側に張り出す意識を持つのが最重要ポイントです。
  5. 両手を脇腹に当て、その手を内側から押し返すように練習すると感覚が掴みやすくなります。

最終的な目標は、お腹を固めた(ブレーシングした)状態で、浅い呼吸や会話ができるようになることです。これにより、動作中も体幹の安定を維持し続けられます。

ブレーシングは筋力向上と腰痛予防に効果絶大

研究データは、ブレーシングの有効性を示しています。

ドローインと比較してはるかに高い腹腔内圧を生み出すことができ、これが体幹の安定性を直接的に向上させます。

また、お腹周りの全ての筋肉を活動させるため、体幹部や股関節の筋力向上に繋がることも示唆されています。さらに、腰痛のリハビリ後期や再発予防においても、ブレーシングの指導を追加することで、痛みの軽減や機能改善に大きな効果があったという報告もあります。

次の章では、この2つをどう使い分ければよいのかを解説します。


ドローインとブレーシング、結局どっちがいいの?

ここまで読んで、「結局、自分はどっちをやればいいの?」と思った方も多いでしょう。

結論から言うと、どちらが優れているという話ではなく、目的によって使い分けることが最も重要です。

目的別!2つの呼吸法の使い分けが重要

ドローインとブレーシングは、対立するものではなく、それぞれの役割を持った相互補完的な技術です。

  • ドローインが向いている人・目的
    • 役割:運動制御の正常化(ソフトウェアの修正)
    • 具体例:慢性腰痛のリハビリ初期、姿勢改善、運動不足で深層筋の使い方がわからない人
  • ブレーシングが向いている人・目的
    • 役割:体幹剛性の最大化(ハードウェアの強化)
    • 具体例:高重量を扱う筋トレ、スポーツのパフォーマンス向上、物理的な衝撃に備える必要がある人

多くの専門家は、まずドローインで眠っている筋肉を目覚めさせ、その感覚を掴んでから、より機能的なブレーシングへとステップアップしていく段階的な導入を推奨しています。

【比較表】ドローインとブレーシングの違いが一目瞭然

特徴ドローイン (Draw-in)ブレーシング (Abdominal Bracing)
基本動作息を吐きながら腹部を凹ませる腹部全体を固め、膨らませる/張りを保つ
主たる目的深層筋の選択的活性化、運動制御の再学習体幹全体の剛性最大化、脊柱の保護
活性化する筋肉腹横筋などのインナーマッスルが中心腹筋群全体の同時収縮
腹腔内圧限定的大幅に高まる
最適な適用場面腰痛リハビリ初期、姿勢改善高重量トレーニング、スポーツ全般
注意点呼吸を止めない、リラックスする脇腹を凹ませない、360°の張りを意識

あなたの目的はどちらに近いですか?次の章では、具体的なケース別に最適なアプローチをご紹介します。


【目的別】あなたのための体幹トレーニング実践ガイド

最後に、ドローインとブレーシングを実際の生活やトレーニングでどのように活用すればよいか、3つのケーススタディを見ていきましょう。

ケース1:慢性腰痛に悩むデスクワーカー

  • 目的:長時間の座り姿勢による腰の負担軽減、痛みの緩和、姿勢改善。
  • アプローチドローインの日常的な実践が中心です。
    1. まず仰向けで正しいドローインをマスターします。
    2. デスクワーク中、1時間に数回、椅子に座ったまま軽くドローインを行い、10〜30秒キープする習慣をつけましょう。
    3. 痛みが和らいできたら、椅子から立ち上がる時や、少し重いものを持つ時に軽いブレーシングを意識し、腰を保護する練習へと移行します。

ケース2:高重量を扱うトレーニー

  • 目的:スクワットやデッドリフトでのケガ予防と最大筋力の発揮。
  • アプローチブレーシング技術の完璧な習得が最優先です。
    1. ウォームアップの段階からブレーシングの練習を取り入れます。
    2. バーベルを担ぐ直前に息を吸い込み、最大級のブレーシングで腹圧を高めます。
    3. 動作中も腹圧を維持し、体幹を一本の固い棒のように安定させることが、安全で効果的な挙上につながります。

ケース3:ゴルフや野球など回旋系スポーツ選手

  • 目的:爆発的な回旋パワーの最大化と、腰へのストレス軽減。
  • アプローチ動的なブレーシングの習得が鍵となります。
    1. 静的なブレーシングで体幹を固める能力が前提です。
    2. 体幹をブレーシングで固めたまま、胸(胸椎)を回旋させる練習(ケーブルウッドチョップなど)が効果的です。
    3. 安定した体幹という土台があるからこそ、下半身で生んだエネルギーを効率よく腕やラケットに伝えることができ、パフォーマンス向上とケガ予防を両立できます。

まとめ

今回は、体幹トレーニングの効果を最大化する2つの呼吸法、「ドローイン」と「ブレーシング」について解説しました。

最後に、この記事の重要なポイントをまとめます。

  • 体幹の安定には「腹腔内圧(お腹の圧力)」が重要であり、それは呼吸法によってコントロールできる。
  • ドローインは、お腹を凹ませる呼吸法で、眠っている深層筋(インナーマッスル)を目覚めさせ、腰痛や姿勢を改善するのに効果的。
  • ブレーシングは、お腹を全方向に固める呼吸法で、体幹の剛性を最大化し、高負荷トレーニングやスポーツのパフォーマンスを向上させるのに不可欠。
  • どちらが良いという訳ではなく、「リハビリ・姿勢改善ならドローイン」「パフォーマンス向上ならブレーシング」というように、目的によって使い分けることが大切。
  • まずはドローインでインナーマッスルを使う感覚を養い、次にブレーシングへとステップアップしていくのが、安全で効果的な習得プロセス。

正しい呼吸法を身につけることは、単に腹筋を鍛える以上の意味を持ちます。それは、あなたの体幹機能を根本から見直し、ケガを防ぎ、あらゆる動作の質を高めるための最も効果的な戦略です。

この記事を参考に、ぜひ今日からあなたのトレーニングに「正しい呼吸」を取り入れてみてください。呼吸を制する者は、体幹を制し、あなたの身体はもっと機能的に、もっと強くなれるはずです。

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