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筋トレの追い込みは「逆効果」かも?筋肥大はあと2回の余力がカギ

筋トレで「限界まで追い込むのが常識」と思っていませんか?

その考え方は、もう古いかもしれません。辛いトレーニングは、あなたの努力を無駄にしている可能性があります。

この記事では、最新科学が導き出した「本当に筋肉がつく、効率的なトレーニング法」を、プロのトレーナーがわかりやすく解説します。やることは「あと1〜2回」の余力を残すだけ。

科学的根拠に基づいた新常識で、あなたのトレーニング効果を最大化させましょう。

そもそも筋トレの「追い込み」とは?限界までやる必要ある?

「筋トレは追い込まないと意味がない」という言葉、あなたも一度は聞いたことがあるかもしれません。

しかし、そもそもこの「追い込み」とは一体何なのでしょうか。まずは、その定義からハッキリさせましょう。

追い込みとは「もう1回も上がらない」まで力を出し切ること

結論から言うと、筋トレにおける「追い込み」とは、セットの最後に、正しいフォームではもう1回も反復できない限界の状態まで力を出し切ることを指します。

ベンチプレスで、歯を食いしばりながら最後の1回をなんとか上げた後、「もう絶対に次はない…」と力が抜ける、あの状態のことです。

このように限界まで力を出し切ることで、筋肉に強烈な刺激を与えるのが「追い込み」の目的でした。

ではなぜ、これほどまでに「追い込みは重要だ」と言われてきたのでしょうか。

「追い込み神話」が生まれた理由

これまで「追い込まないと筋肉は大きくならない」と、まるで神話のように信じられてきました。

その理由は、筋肉が成長するためには、日常では味わえないような強いストレスが必要だと考えられていたからです。「今の筋力では耐えられない!」と筋肉に思わせることで、もっと強く太くなろうとする成長スイッチが入ると考えられていたのです。

しかし、「キツすぎて続かない」「本当にここまでやる必要ある?」と感じる人も多いですよね。 その感覚、実は間違いではありません。

「限界まで」という曖昧な根性論を、もっと科学的に測るための新しい考え方が登場したのです。

新常識!追い込み具合は「RIR」で数値化する時代へ

そこで登場したのが「RIR(Repetitions in Reserve)」という新しい概念です。

これは、セット終了時に「あと何回反復できる余裕があるか」を数値で示すもの。「限界」という曖昧な感覚ではなく、誰にでも分かる客観的な指標でトレーニングの強度を管理できます。

  • RIR 0: もう1回もできない限界の状態(=従来の追い込み)
  • RIR 2: あと2回はできる余力がある状態
  • RIR 5: まだ十分な余力が残っている状態

例えば、スクワットを10回やって「もうあと2回ならギリギリできるな」と感じたら、それは「RIR 2」となります。このRIRを使えば、あなたに本当に必要な「追い込み具合」が具体的にわかるのです。

では、近年の研究で明らかになった、最も筋肥大に効果的なRIRは一体いくつなのでしょうか。

筋肥大の最大化は「あと1〜2回」の余力がカギ

長年の論争に終止符を打ったのは、2024年に発表された最新の研究でした。その結論は非常にシンプルです。

筋肥大に最も効果的なRIRは「 1〜2」

2024年におこなわれた最新研究の結論は、筋肥大を最大化させるのに最も効果的なのは「RIR 1〜2」です。

これはつまり、「もうあと1〜2回しかできない」という、限界一歩手前の状態でセットを終えるのがベストだということ。フロリダ・アトランティック大学が行った大規模な分析により、追い込み具合が限界に近づくほど、筋肥大の効果が高まることが証明されました。

逆に、余力を残しすぎると(RIRが高いと)、せっかくのトレーニング効果が薄れてしまう可能性も指摘されています。

つまり、ただやみくもに回数をこなすのではなく、「あと1〜2回」というポイントを狙うことが、効率的な筋肥大への近道なのです。

では、なぜ「限界ギリギリ」ではなく、「限界の一歩手前」なのでしょうか?

限界まで(RIR 0)は負担が大きすぎて非効率

「それなら、やっぱり限界のRIR 0までやった方がいいのでは?」と思いますよね。

しかし、必ずしもRIR 0まで追い込む必要はありません なぜなら、限界まで追い込むと、心身への疲労が極端に大きくなるからです。

過度な疲労は、次のトレーニングの質を下げてしまったり、ケガのリスクを高めたりする原因になります。1回のトレーニングで全力を出し切るよりも、質の高いトレーニングをコンスタントに続ける方が、長い目で見て筋肉は成長しやすいのです。

だからこそ、あえて「あと1〜2回」の余力を残すことが、賢い戦略と言えます。

あなたに合った最適な追い込みレベルの見つけ方

筋肥大には「RIR 1〜2」が最適ですが、それはあくまで上級者の話。トレーニングのレベルによって、目指すべきRIRは異なります。

【レベル別】初心者はRIR 3〜5でフォームを固める

トレーニングを始めたばかりの初心者の場合、無理な追い込みは禁物です。

まずは「RIR 3〜5」、つまり「あと3〜5回はできるかな」という余裕を持ったレベルでトレーニングしましょう。なぜなら、初心者にとって最も重要なのは、重さを追求することよりも、正しいフォームを体に覚えさせることだからです。

間違ったフォームで追い込んでも、狙った筋肉に効かないばかりか、ケガをするだけ。焦らず、正しいフォームを維持できる範囲で、着実にステップアップしていきましょう。

【レベル別】上級者はRIR 1〜2でさらなる高みへ

トレーニングに慣れてきた上級者は、筋肥大効果を最大化するために「RIR 1〜2」を積極的に狙っていきましょう

自分の限界を把握し、意識的に「あと1〜2回」のポイントまで追い込むことで、筋肉に強い刺激を与えることができます。ただし、毎回すべての種目で追い込む必要はありません。

大切なのは、長期的な視点でトレーニングをデザインすることです。

最重要なのは「週の総負荷量」!長期的な視点を持とう

1回1回のトレーニングでどれだけ追い込むか、という視点も大切ですが、それ以上に重要なことがあります。

毎回の追い込みよりも、週の総負荷量が重要

筋肥大を決定づける最も重要な要素は「週の総負荷量(重量×回数×セット数×週の頻度)」です。

つまり、1週間というトータルで、どれだけの負荷を筋肉に与えられたかが、筋肉の成長を左右します。

毎回RIR 1〜2で追い込んで疲労困憊になり、週に1回しかトレーニングできないよりも、少し余裕を持たせて週に2〜3回トレーニングする方が、総負荷量は高くなります。

目先の「追い込み」にとらわれず、自分が継続できる負荷を見つけることが、結果的に最大の効果を生むのです。

疲労を管理し、トレーニング量を最大化する戦略

トレーニングの専門家は、疲労の管理が上手です。

例えば、「今日は高重量を扱う日だからRIR 3くらいで抑えておこう」「今日は軽い重量の日だからRIR 1までしっかり追い込もう」というように、日によって追い込みレベルを調整するのも有効な戦略です。

自分の体と相談しながら、持続的にトレーニング量を増やしていくこと。それが、あなたの体を着実に変えていくための、最も確実な方法と言えるでしょう。

疲労の管理にはプロテインも効果的です。詳しくはプロテインで疲労回復!効果を最大化する飲み方と3つの栄養素で解説していますので、参考にしてください。

【上級者向け】それでも追い込みたい!快感を活かす戦略的追い込み術

筋肥大には「あと1〜2回」の余力を残すのが最も効率的だと解説してきました。

しかし、「限界までやり切った!」という、あの精神的な達成感や爽快感がトレーニングのモチベーションになっている方も多いでしょう。

そこでこの章では、普段はRIR 1〜2を基本としながらも、「今日は追い込みたい!」という日のために、安全かつ効果的に追い込むための戦略的な方法を解説します。

追い込みのメリット・デメリットを再確認しよう

戦略を立てる前に、追い込むことのメリットとデメリットを正しく理解しておくことが重要です。

  • メリット: 強い精神的な達成感、使用する筋繊維の総動員。
  • デメリット: 怪我のリスク増大、過度な疲労による回復の遅れ、次回のトレーニングの質の低下。

毎回限界まで追い込むと、デメリットがメリットを上回ってしまい、結果的に「週の総負荷量」が落ちて成長が停滞する可能性があります。

追い込みは、あくまでトレーニングの「スパイス」として、計画的に取り入れましょう。

安全に追い込むための3つのテクニック

やみくもに回数を重ねるのではなく、追い込むためのテクニックを知っておくと、安全かつ効果的に筋肉を刺激できます。代表的なものを3つ紹介します。

テクニック1:ドロップセット法

ドロップセット法は、限界が来たらすぐに重量を軽くして、休憩なしでさらに動作を続ける方法です。1人でも安全に行いやすく、強いパンプ感を得られます。

(例)ダンベルカール10kgで限界 → すぐに8kgに持ち替えて限界まで → さらに6kgに持ち替えて限界まで

テクニック2:レストポーズ法

レストポーズ法は、限界が来た後、10〜15秒ほどの短い休憩を挟み、同じ重量でさらに数回動作を繰り返す方法です。使用重量を維持したまま、総反復回数を増やせます。

(例)ベンチプレス80kgで8回が限界 → 15秒休む → 2回追加 → 15秒休む → 1回追加

テクニック3:パーシャルレップ法

パーシャルレップ法は、全可動域で動かせなくなってから、動かせる範囲(部分的)だけで動作を続けて筋肉を追い込む方法です。最後の最後まで筋肉を使い切る感覚が得られます。

(例)サイドレイズで肩まで上がらなくなったら、可動域の半分で上げ下げを続ける

追い込む際に守るべき4つの絶対ルール

追い込みのテクニックは非常に強力ですが、諸刃の剣でもあります。安全に行うために、以下のルールは必ず守ってください。

  • 最終セットだけに行う
    毎セット追い込むと、すぐに疲労困憊になります。追い込むのは、各種目の最終セットだけに限定しましょう。
  • 種目を選ぶ
    スクワットやデッドリフトのような高重量を扱う種目での追い込みは、大怪我に繋がるリスクがあります。追い込む際は、ダンベルカールやレッグエクステンションのような、比較的安全なマシンや単関節種目がおすすめです。
  • フォームを崩さない
    フォームが崩れた瞬間、それはトレーニングではなく、ただの危険な動作に変わります。正しいフォームを維持できることが大前提です。
  • 頻度を限定する
    追い込む日を設けるのは、多くても週に1〜2回程度にしましょう。体の回復を最優先に考え、計画的に取り入れることが重要です。

追い込みの快感は、トレーニングの素晴らしいスパイスになります。しかし、それがメインディッシュにならないように注意してください。基本はあくまで「週の総負荷量」の向上です。

まとめ

今回は、科学的根拠に基づいた筋トレの最適な負荷設定から、上級者向けの戦略的な追い込み術までを解説しました。 最後に、あなたのトレーニングを次のレベルへ引き上げるための重要なポイントをまとめます。

  • 筋トレの基本は「あと1〜2回」の余力(RIR 1-2)を残すのが最も効率的です。
  • 限界までの追い込みは、過度な疲労を招き、長期的な成長を妨げる可能性があります。
  • 初心者はフォーム優先で、まずはRIR 3〜5の余裕を持った設定から始めましょう。
  • 追い込む達成感を活かしたい日は、最終セットだけに限定するなど、ルールを決めて戦略的に取り入れるのが賢い選択です。
  • 最も大切なのは、目先の1回よりも「週の総負荷量」を継続して増やしていくことです。

この記事で紹介した方法を実践すれば、無駄な怪我やオーバートレーニングを避けられます。そして、時には追い込む達成感もスパイスとして味わいながら、科学的に最も効率よく理想の体を目指せるでしょう。